五輪選手の「バブル」は効果なし? 国内から30万人が出入り、ワクチン用意は2万人分

2021年6月4日 06時00分
 東京五輪・パラリンピックで「特例入国」する選手や大会関係者は、新型コロナウイルス流入を防ぐための検疫の「停留」(施設での隔離)が免除され、入国後、ただちに練習などができる。外部と遮断した空間をつくる「バブル方式」で感染を防ぐ方針だが、このバブルに延べ30万人の国内関係者が出入りすることが明らかになった。世界中から選手らを迎えるため、新たな変異株が流入する可能性もあり、専門家は停留免除とバブルのほころびが招く感染拡大を懸念する。(沢田千秋、原田遼、藤川大樹)
 慶応大臨床遺伝学センターの小崎健次郎教授らは、新型コロナの国際的なゲノム(全遺伝情報)データベース「GISAID」で公開された情報を比較、分析した。英国株は、最初に見つかった英国のほか欧州、東南アジア、オセアニアなど世界各地から国内に流入していた。また、ブラジル株はブラジルと米国から、南アフリカ株は同国からではなく欧州の2カ国から入っていた。
 変異株の流行国からの入国者が、検疫所長が定める施設で3日間の停留を順次、要請されるようになり、流入の抑制傾向がみられた。政府は現在、変異株流行国に指定した約30カ国からの入国者に対し、検疫所長が指定する施設で3~10日間の停留を要請している。
 東京五輪・パラの選手と大会関係者ら計9万3000人は、この停留が免除される。代わりに、選手村や大会組織委員会が用意するホテルで3日間の自室待機をするが、選手や一部の大会関係者は、練習や運営のための外出が認められている。
 さらに、頻繁な検査と外部と接触しないバブルを形成することで感染を防止するという。しかし、バブルの不完全さが、これまでの国際大会で指摘されている。
 3月のフェンシング(ハンガリー)、4月のレスリング(カザフスタン)、5月の柔道(ロシア)などバブルが採用された大会で、日本選手が感染した。レスリング関係者は「日本人はまじめだが、マスクをしないでわめき散らす国が結構あった。ルールを守るかの差が激し過ぎる」と振り返った。
 東京五輪・パラのバブルは、それら国際大会をはるかにしのぐ規模となる。組織委によると、このバブルに出入りする国内の約30万人は通訳、警備、運転、清掃などに携わり、公共交通機関で自宅などから通う。30万人中、ワクチンの用意は2万人分しかない。
 釜萢かまやち敏・日本医師会常任理事は「非常に感染リスクが高い。わが国で感染した選手が母国に持ち帰り感染拡大させてしまう事態も容認できない」と強調。別のメンバーは「バブルという大会の感染対策と地域の対策が別の事象みたいに扱われるが、国民はそんなわけはないと見透かしている」と話した。

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